二月某日。
 ミック・E・モーセとの戦闘に勝利した戦士たちは、今日も優雅に祝勝ティータイムとしゃれこんで いた。
「あ、あの…」
 いつもはっきり物を言うイエローが珍しくもじもじしている。
「立派なお茶菓子が並んでる中で、ものすごく気は引けるんですけど…」
 黄色いツナギのねずみ姿でスクールバッグをごそごそやる姿はかなりの違和感なのだが、 それはさておき。
「今日、家庭科の時間にみんなで作って。……ちょっと早いけど、バレンタインです」
 イエローが取り出したのは、いかにも手作りですと言う感じの素朴な見た目のカップケーキだった。 その数四つ。
「ねずイエロー。気持ちは嬉しいが、私は君に応える訳には…」
「はっきりきっぱり義理だから余計な心配しないでいいから!」
「…ふむ、最近流行りの『友チョコ』というやつだったか。ではありがたく頂くとしよう」
 山田太郎がケーキを一つ持っていくのと入れ替わりに、今度はピンクがやってくる。
「すごい、美味しそうね。私なんか、お菓子作りなんてしたことがないから…本当にすごいわ」
「ありがとうございます!…でも実は、何個か失敗しちゃって。うまく出来たの選んだら、 これだけになっちゃいました」
「そうなの?そんな貴重なもの、私が貰っちゃっていいのかしら」
「いいんです。食べてもらおうと思って持って来たんですから、嫌いじゃなかったら是非」
「ありがとう。それじゃあ、一つもらうわね」
 ケーキを手に自分の席に戻るピンクを見送りながら、イエローはちらりと離れたところに一人で 座っているブルーに目をやった。興味ない、とでも言いたそうな横顔に少しがっかりする。
(ブルーに一番食べて欲しかったんだけどな…)
 そこだけは密かに、義理でなく本命だったのだが。
「おお、本当に手作りだ」
「ちょっと、どういう意味ですかそれ。聞き捨てならないですよ」
 見上げるほどに大きいレッドが背中を丸めてがしがしと頭をかく。
「いや悪い。深い意味はないんだ。ただちょっと…バレンタインに女の子から手作りのお菓子もらう なんて初めてだから感動してだな」
 ごにょごにょっとレッドが弁解する。
「と、とにかくありがとな。これ、貰うぜ」
 そしてその場でかぶりつこうとしたところで、不意に、すっと横から伸びてきた手がレッドの手から ケーキを奪った。
「………まぁまぁだな」
 無言でかじり、無言で咀嚼、そして一言。
 呆気にとられるイエローとレッドの目の前で、ブルーはあっという間にケーキを平らげた。 そして残った一つを手に取ると。
「ほら、あんたの分だ」
「あ、ありがとうございます…?」
 差し出されて、つい反射的にイエローはケーキを受け取った。何かおかしいな、と思いつつ、 促されるままに一口。
(うん、まぁまぁ美味しい)
 イエローがもぐもぐしていると。
「………って俺の分が!?」
「あっ…!」
 食べてから気がついた。
 イエローが持ってきたカップケーキは四つ。山田太郎とピンク、レッド、ブルーで四人。 イエロー自身の分は、そもそも用意していなかったのだ。
「ごめんなさいレッド!ど、どうしよう…これ、私の食べかけじゃまずいですよね…」
 慌てるイエローに、がっくりとうなだれながらレッドが手を振った。
「いいよ、気にするな。気持ちだけありがたく受け取っとく」
「今度、また何か作ったら持ってきます!」
「ああ、ありがとな」
 強面をくしゃりとさせて笑う。そしてレッドは、いつのまにかちゃっかり帰ろうとしていた ブルーを追いかけると、その背中に飛びかかった。
「こら!お前なに勝手に帰ろうとしてんだ」
「…っ、やめろくっつくな離れろ」
 賑やかな二人の背中が部屋の外へと消えていくのを見送りながら、イエローは。
(………ブルーが食べてくれた)
 レッドに申し訳ないと思いつつ、それでもどうしようもなくドキドキと胸が高鳴るのだった。






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