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「パーティーですか?」
「はい。私事で恐縮なんですが、娘が誕生日で。ささやかながらお祝いをと思いまして」
 今年十歳になるという娘が可愛くて仕方ないのだろう。顔が、完全に緩みきっている。
「よろしければ、巫子様にもお祝いして頂ければと嬉しいのですが」
「私なんかがお邪魔してもいいんですか?」
「勿論です。娘も喜びます」
 あからさまに浮足立った様子で、アリアがちらりとシェラザードを見る。そんなアリアに、シェラザードは一度ラーイを見て、 それから柔らかく微笑むと、頷いた。
「では、そのように予定を調整致しましょう」
「ありがとうございます!」
 歓声を上げるアリア。
 後で正式に招待状をお持ちします、と去っていく、男の嬉しそうな後ろ姿を見送る。
 公式な催しでないとはいえ、青竜の巫子を招くとなれば本来は相応の、幾多の手続きを踏む必要がある。それがたまたま、 巫子本人であるアリアとその女官長であるシェラザード、そして青の宮で文官を務めるその男の上司であるラーイの三人が 居合わせたこの場で話題が上り、他ならぬアリア自身が希望したため最短での招待が実現したのだ。招待した男の方が逆に、 この展開に驚いていることだろう。
「お好きなんですか?パーティーが」
 正直なところ、ラーイは少し意外だった。ドレスだとか、宝石だとか、パーティーだとか。そういったきらびやかなものに、 あまりアリアは興味がないのだと思っていたからだ。こんなに喜ぶのなら、もっと色々贈り物をしていればよかったかと思う。
「パーティー自体が、っていうより、雰囲気が好きなんです。みんなで一緒にお祝いして…。私の家も、昔は毎年やってたんですよ、 誕生日のパーティー。といっても本当にささやかなものだったんですけど」
 ほんのわずか、アリアの表情が翳りを帯びる。
「巫子様は、ダンスはお得意なんですか?」
 物思いの淵に沈もうと見えたアリアに、ラーイはあえて無遠慮に踏み込んだ。
「ダンス…ですか?」
「ええ。巫子様のことですから、休む暇もなく次々と誘われる可能性もあります。…少し心配ですね」
「ちょっと待って下さいラーイさん。もしかしてダンスを踊るんですか?私が?」
 焦った様子のアリアに、ラーイが首を傾げる。
「パーティーですから、ダンスは付きものでしょう?舞踏会、というほど大掛かりなものではないと思いますが」
 そこまで言って、もしやと思う。
「ラーイさん…私、ダンスなんて踊ったことないんですけど…」
 頭を抱え込んだアリアに、ラーイは自分の考えが的中したことを悟った。



「練習しましょう」
 今からでも断った方がいいだろうかと悩むアリアに、ラーイは言った。
「幸い、パーティーまではまだ日にちがありますし。今後また、こういった機会がないとも限りませんし」
 むしろ、あると考えた方がいいだろう。
 今回のような個人的なパーティーに関してはわからないが、国として公の式や宴は少なくない。青竜の巫子として、出席しなければ ならないことも多いだろう。そういった場面に遭遇する前に練習することができて幸いだったと考えるべきかもしれない。
「最低限の基本さえ覚えれば、あとは男性がリードしますから。大丈夫。巫子様ならすぐにできますよ」
 まだ不安そうなアリアに、にっこりと笑う。
「いくらでもお付き合いしますから。そんな顔をなさらず、どうせなら楽しくやりましょう」
「…ラーイさんが?ダンスを教えてくれるんですか?」
「他の者がよろしければ、急ぎ探しますが」
 慌てたように、アリアが首と両手をぶんぶんと振り回す。
「そんな!ただラーイさんに迷惑かなって…」
「迷惑だなんて、そんなこと微塵も思っていませんよ。むしろ役得だなぁ、と」
 最後、さりげなく付け加えた一言に一瞬ぽかんとしたアリアだったが、聞き間違いだとでも思ったのか、すぐに表情を改めると、 ぺこりと頭を下げた。
「それじゃあ、お願いしてもいいですか。すみません、ラーイさん忙しいのに…いつも、ありがとうございます」



 あまり表にすることはないが、ラーイは一応、王都でもそれなりの家柄の生まれだ。たしなみとして、幼少時からダンスは 教えられてきた。
「なんだか、ちょっと意外です」
 もともと運動神経の良いアリアは、『すぐにできます』とラーイが言った言葉の通り、やはり呑み込みが早かった。 ある程度踊れる男性が相手なら、もう問題なく合わせることができるだろう。
「意外って…私が、踊れることが?」
「こういうのって、遠い世界のものだと思っていたから。まさか自分がダンスの練習をすることになるなんて思わなかったし、 身近にいる人がこんなに上手だなんて…考えもしなかったです」
「私なんて全然ですよ。もっと上手い人はたくさんいます」
 下手というほど卑下するつもりはないが、感心されるほど達者な訳ではない。ダンスをたしなんでいるのはラーイだけではなく、 貴族と名の付く家の者であれば皆、心得があるものだ。その中にはもちろん、ラーイより上手く踊れる者も少なからずいる。
 しかしラーイのその発言を、アリアは謙遜ととったらしい。少し興奮した様子で、ずいとラーイに詰め寄った。
「でも、ラーイさんすごいですよ。物語の中の王子様みたいで格好良いです」
「………」
 意表を突かれた。本物の王族がいるこの場所で、まさか王子様みたいと言われるとは。
 こみ上げる暖かな感情に、自然と笑みがこぼれる。
「ラ、ラーイさん…?」
 何かおかしなこと言いましたか、とまったく無自覚なアリアに、笑いながらラーイは手を振った。
 そして、アリアの手を握る。
「さて。休憩はここまでにして、もう少し練習しましょうか」
 向かい合い、背中に手を添える。
 少しかがむと、ラーイはアリアの耳元に囁いた。
「アリアさんとこうして踊ること、本当に迷惑なんかじゃないんですよ」
 顔を見なくとも、アリアの瞳に盛大に疑問符が浮かんでいるだろうことがわかる。
「だって、踊っている間はこうして、アリアさんと手を繋いでいられる」
「…っ!?」
 かっ、とアリアの耳が真っ赤になった。
 素直な反応に益々楽しく、嬉しくなってくる。
「今度のパーティーが終わっても、また踊りましょう?」
「………」
 アリアからの返事はなく。
 ただ繋がった手に、ぎゅっと力が込められるのを感じた。






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