「………随分と、仲が良さそうだったね」
「ああ、そうだな」
「幼馴染だったなんて知ってたかい?」
「いや、知らなかった」
「本当に単なる幼馴染なのかな?」
「…どういう意味だ?」
「………腕、組んでましたね…」
豊かな水に恵まれた東国、ヴォルフハルト。
国の守りたる青き竜と、その巫子のために存在する青竜騎士団。その敷地の一角に彼らはいた。
普段は食堂として使用しているその広間には今現在、彼ら以外の姿はない。長方形のテーブルに
向かい合わせで座り、三人頭をつき合わせるようにしている。
「あんな、赤面したカイなんて初めて見ました」
フォルテのつぶやきに、ノアが大きく頷く。
「そう、そこだよ。普通ただの幼馴染相手に、あんな顔をするかな?」
紫がかった灰色の瞳を好奇心にらんらんと輝かせるノアとは対照的に、ヒースクリフはきゅっと
眉間にしわを寄せた。
「どちらにせよ、カイのプライベートだろう。俺たちがこそこそと詮索すべきことじゃない」
「つれないことを言うね」
「………つれるとか、つれないとか、そういう問題じゃないだろう」
「フォルテだって気になるよね?彼と彼女の関係」
「はい。気になります」
突然話をふられて、つい本音で返してしまう。
嬉しそうなノアと、不機嫌そうなヒースクリフの視線を同時に受けて、
フォルテは自分の迂闊さを呪った。
先ほどから話題に上っているカイ・ロクスウェルは青竜騎士団正騎士の一人であり、
三人の同僚に当たる。フォルテとカイは相部屋で、フォルテの指導官であるノアと、
カイの指導官であるヒースクリフもやはり相部屋となっている。その関係で、四人は共同して
仕事に就くことが多い。よって必然的に、非番の日もほとんど同じタイミングでやってくる。
今日も四人そろっての非番であり、食事を終えて、そのままあれやこれやの雑談に
花を咲かせていたところだった。
そこに、騎士団団長のギルフォードに連れられて、つい先日青竜の巫子に就任したばかりの少女が
やってきたのだ。自分たちの主となるその少女を見るのは二度目だったが、前回は契約の儀の警固に
当たっている最中に遠くから見ただけだったので、きちんとした形で対面するのはこれが初めてとなる。
自らアリア・ニールセンと名乗り、笑顔でお辞儀をした青竜の巫子は、そうと知らなければ
いたって普通の、可愛らしい少女に見えた。
そしてその少女は、幼馴染だというカイに腕を絡め、親しげな眼差しを向けると、
二人してどこかへと消えていったのだった。
「フォルテはどう思う?二人は、恋人同士だと思うかい?」
「いや、俺はそういうこと、よくわからないです。……すみません」
「ヒースクリフはどう思った?」
「だから、俺たちが詮索すべきことじゃないだろうと…」
「私が思うに、あれはきっとカイの片思いだね」
人に意見を求めながらも、人の意見をまったく聞かずにノアが一人話を進める。
「巫子様の行動は多分、まったくの無意識だ」
顎に手を当てて、何かを考える素振りのノア。
「カイならいくらでも相手がいるだろうに、浮いた噂の一つもなかったのはこれが理由だったのか」
「………やっぱり、そうなんですかね」
フォルテはノアの方へと身を乗り出した。先ほどはヒースクリフの視線を恐れて気のない素振りを
装ってしまったが、やはり気になる。それに色恋沙汰に詳しくないのも確かな事実だったので、
自分よりも経験豊富そうなノアの意見をもっと聞きたかった。
「なんだ。やっぱりフォルテも気になるんじゃないか」
「すみません。………友達なので」
友達、という単語が心の琴線に触れたのだろうか。ヒースクリフの眉間に刻まれたしわが薄くなった。
牽制でもするようにノアをにらんで、フォルテには柔らかな眼差しを向ける。
「フォルテは友達を心配しているんだ。お前とは違う、ノア」
「ひどいな。私だって、ちゃんとカイを心配しているのに」
「心配しているが、それ以上に面白がっているんだろう」
「おや。ばれたか」
ひょいと肩をすくめる仕草。
「ま、私が面白がっているかどうかなんて、そんなことどうでもいいよ。結局みんなカイのことが
気になるってことで」
「………はぁ」
ヒースクリフが、あきらめたようにため息一つ。
「…巫子様は、カイと仲のいいところをわざと俺たちに見せつけようとしているように見えたな」
「シャナ嬢もそういうことをするのかい?」
「俺のことはどうでもいいだろう!」
話を進めたいのか、脱線させたいのか。
多分どちらでもいいのだろう。
対峙する二人の間にフォルテは割って入った。
「とにかく、カイが巫子様を特別に思っているのは確実だってことですよね?」
「それは確定事項だね」
「ああ、明らかだろう」
「問題は…」
「巫子様が、カイをどう思っているか」
三人の声が重なった。
「………詳しい事情を何一つ知らない俺たちが、こんなところで論議していても埒が明かないな」
「本人を問い詰めるしかないね」
「でもカイが、素直に言うでしょうか?」
「大丈夫」
にっこりと、ノアが聖人君子のような微笑を浮かべる。
「こう見えて、尋問するのは得意なんだ」
「………」
「………」
その日、カイが帰ってきたのは、そろそろ夜も更けようかという頃だった。
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